カブトガニの生態
1.カブトガニの生息するための必要な環境
カブトガニが生息するための環境は、次の3点が考えられます。
- 産卵をするための目の粗い砂地が必要である。
- 子供(幼生)が成長生育するための栄養に富む干潟が必要である。
- 母親が健康で正常な卵を産むためのきれいな海水が必要である。
すなわち、砂地があってそこから広がる干潟ときれいな海水が必要なんです。昔の日本の海岸には、多く観られたこのような自然な海岸も、50年ほどの間に護岸工事や埋め立てによって激減したことはいうまでもありません。そして、それを追うようにカブトガニの個体数も激減をしています。
このような環境を満たすのは、湾内であり、人にとっても住み良い環境にあります。このことが、カブトガニ激減の原因にもなっています。
2.産卵
カブトガニの産卵は、6月下旬から8月上旬の大潮の満潮時に、海岸の砂浜に近づいて行われます。特に、梅雨明け後の7月の大潮の前後1週間に集中します。
上げ潮にのって海岸に接近したカブトガニのつがいは、砂地に雌が歩脚を使って砂を後に押しだすようにして、前体部が隠れてしまうほど潜ります(写真@)。写真Aは、写真家倉沢栄一氏が、水中の産卵シーンを撮影したものです。雌が15〜20cmの深さに200〜300個の卵を塊の状態で産み落とし、その後に雄が精子を放出して受精をします。写真Bは、狭い多々良海岸にたくさんのカブトガニが産卵している光景です。産卵は、その場所を何回にも分けて行います。産卵が行われているときの特徴として、産卵泡が放出されます(写真C)。産卵に来たカブトガニのつがいは、やがて引き潮とともに沖へ方へ去っていきます。
以前は、伊万里湾のいたるところで観察された産卵ですが、現在は伊万里湾の限られたところでしか見られなくなりました。
3.発生
海岸の砂中に産みつけられた卵は、直径3mm程度で乳白色をしています(写真D)。写真Eは、砂中にうまく産みつけられずにたまたま海水中に放出された卵塊です。卵数は、198個でした。この状態で、通常は砂中に存在します。
この卵の発生の特徴は、胚の状態で4回の脱皮がおこなわれることです。約30日ぐらいで、写真Fのように中が透けて見えてきます。この時期をカボチャ胚といいます。やがて、写真Gのように、すっかりと形がができて、卵膜内で回転をします。この時期を回転卵といい、その後卵膜をやぶって、50日ほどでふ化をします。
写真@
写真A
写真B
写真C
写真D
写真E
写真F
写真G
4.成長
ふ化した幼生は、1齢幼生といいますが、三葉虫に似ていることから三葉虫型幼生とも呼ばれます(写真H)。1齢幼生は、体長6mmで9月の大潮の時期に砂を押し上げて海水中にでてきます(写真I)。海水中にでてき1齢幼生は、引き潮にのって干潟に移動し、干潟で越冬をします。
越冬後の春から、干潟でプランクトンなどを食べて、脱皮成長をしていきます。脱皮するたびに、幼生の齢の数が増えていきます。すなわち、1齢幼生が1回脱皮すると2齢幼生になります。脱皮は、前体部の前から抜け出てきます(写真J)。脱皮後は、約1.2〜1.3倍ほど大きくなります。写真Kは、左が脱皮後の殻で、右が脱皮後の幼生です。
写真Lは、干潮時の干潟で幼生が活動しているところです。幼生は、干潟では泥とよく似た保護色で外敵に目立たないようになっています。写真Mは、北九州市の林修氏が撮影したもので、干潟でのカブトガニの這い後がはっきりと確認できます。
全長6mmの1齢幼生が、体長50〜60cmの成体まで成長するには、何回脱皮をし、何年かかるのでしょうか。これまで、1齢幼生から成体まで飼育することが困難で、推測することしかできませんでした。
しかし、笠岡市立カブトガニ博物館の光枝さんによって、卵から11年の歳月をかけた2000年に14回目の脱皮した個体が成体の雌になったと報告されました。また、2002年には、山口県の原田直宏氏によって10年かかって13回脱皮をした個体が、成体の雄になったと報告されました。
なお、その後の寿命については、まだよくわかっていません。
写真H
写真I
写真J
写真K
写真L
写真M